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ときメモ10周年記念企画
みはりんショートストーリー

頑張れみはりん


10th anniversary

朝のきらめき高校。
正門前近くの茂みの中にその視線の主はいた。
今日も今日とて愛しのあの人を待ち伏せする館林見晴であった。
まぁ、待ち伏せをしてどうすることもないのだが。

始業10分前。
あの人はこの時間帯に来ることが多いけど今日はまだ来ない。
歩いてくる方向を見回してもそれらしき人影はない。
家が隣の藤崎詩織も遅いことが見晴の不安を掻き立てる。
時々、愛しのあの人は藤崎詩織に脅され一緒に登校させれらているのだ。(見晴談)

視線の主は… 始業2分前。
あの人は来ない。まだ来ない。
いくらなんでも遅すぎる。
もしかしたら今日は休みなのかもしれない…見晴の頭の中につまらない一日になる予感がよぎる。
恋をしている彼女にとって、主人公のいない学校など何の張り合いもない存在なのであった。
と、そんなことを考えていると、藤崎詩織が小走りでやって来た。
あの人は一緒ではなく一人である。
いつもは20分前には来るはずの優等生の藤崎詩織が遅刻直前に駆け足でやってくるはずはない。
きっと藤崎さんはあの人の家によって…もしかして何かあったのかもしれない…気になる。なんだか気になる。

そこで始業のチャイムが鳴った。
このままでは自分が遅刻になってしまう。
後ろ髪を引かれながらも駆け足で玄関へと向かった。

見晴の第6感がちょっとした事件の予感を感じていた。
まぁ、その予感は当たっていると言えば当たっていたかもしれない。




「別に怪しくないじゃん。家に寄った藤崎さんが”今日はお休するよ”って話を聞いてたら遅くなった。それだけでしょ。」
「…そういう考えもできるか。」
「できるか、じゃなくってそれしかないの。」
「え〜。」
二時間目の休み時間。
教室のベランダに館林見晴とその親友、西原あゆみの姿があった。
「部屋まで上がりこんで、おでこを合わせて熱を測ってたかもよ〜。」
「そんなことないもん。」
見晴をからかうあゆみ。

「でね、あゆみにお願いがあるの。あの人が何で本当に休みなのか、休みだったらどうしてなのか調べて欲しいの。」
「体調不良に決まってるでしょ。」
「はっきりさせたいの。せめてこの張り合いのない一日の理由をはっきりさせたいの。」
「自分で聞けば?」
「もしかして、あの人が遅れて登校してて、ばったり教室の前で会ったりしたらどうするの?」
「どうもしないよ。」
「あゆみ〜。」
駄々をこねる子供のように、あゆみの左腕を引っ張る見晴だったが、あゆみはまったくもって相手にしていなかった。
「駄目?駄目?」
甘えるような表情で見上げながら右に左に首をかしげあゆみの腕を引っ張り続ける見晴。
世のミハリストがされたら卒倒するようなしぐさではあったが、あゆみには何の威力もなかった。

保君は誰と見に行くのかな〜? どうしても駄目だという雰囲気を悟った見晴はあゆみから一歩離れるとスカートのポケットから2枚の紙切れを取り出した。
「これをあげるからお願い。」
2枚の紙切れは映画のチケットだった。
もちろんそれをエサにする魂胆だが、それはあゆみの見なくてもいい映画のリストにある作品であった。
してやったりという表情をしながらの突っ返すしぐさをするあゆみ。
しかし、見晴はあゆみのそんなしぐさを気にしないで話を進めた。
「この映画、私も見たいと思っていない。でも、保(たもつ)君は見たいって言ってた。」
あゆみの口元が一瞬ぴくりと動いた。
保君とはあゆみの幼馴染で、お互い憎まれ口を言い合いながらもいい雰囲気の男の子。
「あゆみがいらないとなるとこのチケットは保君にあげようっと。
でも、私もあゆみもこの映画を見たくないとなると、保君は誰を誘うのかな〜。
あゆみが誘ったら、保君は喜ぶだろうけどな〜。あゆみは見たくないのか〜。」
今度は見晴がしてやったりという表情であゆみを見返した。

「分かった、分かった、聞いてきてあげるよ。昼休みでいいね。」
「話の分かる親友を持って見晴は幸せだよ。」
そう言いつつ、チケットを渡す見晴と実はそんなに悪くないよという顔で受け取るあゆみ。
そこで話は終わり…なはずだったが、見晴が何かを言いたそうな顔をしていたのをあゆみは見逃さなかった。
「こんなことをしなくてもチケットはくれるつもりだった…でしょ?」



昼休み。
西原あゆみは2-Aクラスの前にいた。
映画のチケットに釣られて請け負ったはいいものの、 他のクラスのいち男子生徒の欠席の理由を聞く理由などある訳がない。
いや、ひとつあるにはあるのだが、それはあゆみにとっては不本意なものであった。
誰にどう聞いていいのか分からずに廊下でうろうろしていると後から声をかけられた。

そこにいたのは早乙女好雄。
「え〜と、たしか西原あゆみさんだったよね。どうしたのこんなところで?」
さすが好雄だ。名乗る前に彼女が西原あゆみであることを分かっていた。
しかしこれは渡りに船、さっそく見晴の言う”あの人”の欠席について聞いてみた。
「あ〜、なんか調子が悪いとか言ってたみたい。」
「調子が悪いって風邪かなにか?」
「詳しくは…あ、そうだ、藤崎さんがアイツの家に寄ってきたから詳しいこと知ってるぜ。」
藤崎さんと言えばもちろん藤崎詩織のこと。
知り合いではなかったが、きらめき高校ではちょっとした有名人、まして親友の恋敵なのであゆみもその存在は知っていた。
ただでさえさっさと切り上げたいところなのに、話の核心に近いであろう藤崎詩織本人に話に入られては事が大きくなりすぎる。
慌てて好雄を止めようとしたあゆみであったが、時既に遅かった。

好雄に呼ばれた藤崎詩織が目の前にやって来た。
「何かしら?」
ストレートな髪に整った顔立ち、上品な声と語り口が品行方正な優等生ぶりを物語っている。
西原あゆみ個人にとっては敵でも味方でもなかったが、その優等生の放つオーラに気後れしそうだった。
「西原さん、アイツの欠席の理由を知りたいんだってさ。」
あゆみの一人気まずい雰囲気を察することなく、好雄はずけずけと詩織に質問した。
「欠席の理由?」
そう言うと詩織はあゆみに視線を移し、続けた。
「どうして?」
悪意のない天使のような上品な笑顔だったが、あゆみはその笑顔の奥に潜む余裕を見逃さなかった。
軽く詩織を見返すあゆみだったが、理由など言える訳がない。
とりあえず、自分はあなたのライバルじゃないのよと思ってやるのが精一杯だった。
「風邪みたいよ。昨日の夜あたりから寒気がして今朝は熱があったんだって。」
「風邪…ですか。分かりました。ありがとうございます。」

欠席の理由は聞き出せた。これで用事は済んだ。
詩織の「どうして?」の質問に答える必要はない。ここは撤退だ。
会釈をしながらお礼を言うと、次の授業の準備があることを理由にその場を離れるあゆみ。
が、数歩歩いたところで、詩織に声をかけられた。
「何か用事があるのなら、伝えてあげるわよ。」
相変わらずの上品な笑顔だった。



「むかつく、むかつく、むかつく〜。」
見晴の元に戻ってきたあゆみは周りをはばかることなく、そう毒づいた。
「むかつくって何が?」
「藤崎さん、去り際の私になんて言ったと思う?」
「…何て言ったの?」
「”何か用事があるのなら、伝えてあげるわよ。”だって。それもあの笑顔でよ。」
眉をひそめ口をとがらせ、いかにも怒っているようなしぐさをするあゆみだったが、 見晴はそれがどうしてむかつくのか理解できなかった。
わざわざ他人の用事を伝えてくれるのならそれは親切ではないのか。
親切ならそれは怒ることはないのではないか。よく分からない。
見晴はきょとんとした顔つきであゆみの動きを目で追っていた。

「あ、分かってないね、見晴。」
さすが親友。見晴が分かってないことを表情で理解した。
「憧れのあの人はお休み…いいね。」
「うん。」
「お休みしてる人に用事を伝えるってことは、家に行くってことでしょ。」
「うん。」
「見晴はあの人の家に行ける?」
「…行けないよぉ。」
「だよね。私だって行けない…でも、藤崎さんは行けるのよ。」
「…うん。まぁ。」
「つまり、あなたは行けないけどこの私は行けるから伝言を聞いてあげるってことでしょ。」
「…うん。まぁ。でも、だからそれでどうしてあゆみがむかつくの?」
あゆみの説明は簡潔に核心をついたものではなかったが、ここまで言っても気が付かない見晴にちょっといらついた。
「つまり!アンタと私は彼に対する立場が全然違うってことを暗に言ってるの!
その男の子を気にしている女の子の言葉を藤崎さんに伝えてもらうなんてことできると思って!?
失礼にも程がある!私に向かったあの台詞と笑顔は宣戦布告…いや、戦わずして勝利している笑顔なのよ!!」

あゆみの言いたいことが分かった。なんとなくだけど分かった。
妙な雲行きだけど、とりあえずあゆみをなだめる見晴であった。
「しかし、神様がいるとしたらずるいわ。
あの容姿と成績と運動能力を一人の人間に与えるなんて卑怯だと思わない?見晴?」
「え…まぁ…うん。」
「しかもあんな”したたかさ”までもでしっかり持ち合わせてるし。
見晴、あなたも厄介なライバルのいる人に惚れこんだわね。前途多難だわ。」
「うん…」

勢い余ってここまで言ったあゆみは、見晴に視線を戻して我に返った。
そうだ、藤崎詩織がライバルであることに苦心しているのは他の誰でもない、見晴本人だ。
そんなこと言われるまでもないし、わざわざ言われていい気持ちな訳がない。

「あ、ちょっと言い過ぎた。見晴、ごめん。」
「いいよ。」
「見晴さぁ、本音を言うとお見舞いに行きたいでしょ。」
「そりゃあ、行きたいけど。」
「よし!行け!!」
「へ?無理だよぉ…そんなの。」
「見晴、あなた、彼のお見舞いに行きなさい。藤崎さんに負けちゃ駄目よ。藤崎さんを出しぬいてやるのよ。」
「無理だよ〜。」
何を言い出すんだこの人は。そう思う見晴だった。



放課後。
あの人がいない学校にはもう用はない。
今日はさっさと退散だ。
下履きに履き替え、昇降口から出ようとしていた見晴を後から来たあゆみが呼び止めた。
「な、何?…今日はまっすぐ帰るよ。」
「まぁ、まぁ。待ってなって。」
「待たな…」
「あッ、来た来た。ナイスタイミング。」
待たないよと言い終わる前に見晴の腕を掴んだあゆみはそのまま数メートル引っ張った。

無理に引っ張られ体が斜めになる。
姿勢を直すのに数歩小走りで歩き、上半身を立て直した。
その瞬間、目の前にいた人物に見晴はどきりとした。
藤崎詩織である。

私は藤崎さんに用事なんてない。藤崎さんと話すことなんてない。藤崎さんに頼む用事もない。
「あなたはたしか昼休みの時の…」
藤崎詩織は見晴ではなくあゆみに話し掛けたが、その言葉を無視してあゆみはこう言い放った。
「帰りにお見舞いに行くなら、この娘を連れてって頂戴。」
何を言い出すんだこの人は。そう思う見晴だった。

続く…

(近日公開予定)


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